私(大塚)が行っている“心房細動に対する心臓内視鏡外科手術:ウルフ―オオツカ[WOLF-OHTSUKA (W-O)]法” は、次の2つのことを行います(医療保険使用できます)。
① 脳梗塞を起こす血栓の発生部位である左心耳を安全、迅速、かつ完全に閉鎖
W-O法はステープラーという道具を使います。この道具で瞬時に左心耳を外側から切り取り3列の医療用ホチキスで確実に閉鎖することができます。カテーテルによる経皮的方法(ウオッチマン)など心臓の中から左心耳内に詰め物を移植するやり方の臨床結果(*)に比べ(図4の比較表をご覧ください)、安全性(出血、血栓性塞栓症などの重大合併症を起こさない)と確実性(どんな大きさや形の左心耳でも残さず閉鎖する)に優れ、コスト(使用する道具が圧倒的に廉価)でも医療に貢献できると思われます。左心耳を閉鎖するだけならば手術時間(20分程度)は圧倒的に早く「世界最速の左心耳閉鎖術」といわれています。また、カテーテル法と大きく違うのは、左心耳の外側から閉じるので、心臓内の血流に触れる異物はなく、閉鎖部の内皮化も迅速で、ほとんどの患者さんが術後ただちに(一部の患者さんが手術1か月後に)抗凝固治療(血液サラサラ!といわれているお薬)から離脱でき、抗血小板薬(アスピリンなど)の服用も不要です(経皮的カテーテル[ウオッチマン]法では一生アスピリンを服用)。また、左心耳をいじらずにその根元でさっと切るため左心耳の先端部分に血栓が疑われても切り取れるのはW-O法だけでしょう。
(*): 左心耳閉鎖デバイス(ウオッチマン、アンプラッツァー)上の血栓出現率は7.2%/年⇒死亡率6.9%, 脳梗塞発症率3.8%.
Fauchier et al. Device-Related Thrombosis After Percutaneous Left Atrial Appendage Occlusion for Atrial Fibrillation J Am Coll Cardiol 2018 Vol.71 pp1528-36
② 心臓の外側からW-Oアブレーション法で乱れた脈を矯正します
(足の付根の血管からカテーテルを入れ心臓の内側から行うのが内科的アブレーション)
①と②を同時に行うのが「W-O I」で、 ①のみを行うのが「W-O II 」です。患者さんの希望を踏まえますが、基本的に、頻脈症状のある方やアブレーションの長期的効果が期待できる患者さんにW-O I を行います。(おおよそ9:1の割合でWOLF-OHTSUKA I をお受けになる患者さんの方が多い)。W-OアブレーションはW-O法オリジナルの左側左房一括隔離(左心耳と左肺静脈を一括して隔離する方法)、右側の肺静脈隔離、上大静脈隔離、左房後壁のボックス隔離を基本としています。このようにWOLF-OHTSUKA法は2つの敵<不整脈と脳梗塞>を一度に相手にする二刀流の治療法です。
W-O法の手術時間は、W-O I (アブレーション+左心耳切除)の場合 1時間+α、W-O II (左心耳切除のみ)の場合 20分 程度で終了します。手術後の在院日数はI法で5日、II法で3日程度 です。
W-O法には次の3つの効果があります。
① 脳梗塞予防効果:
切り取った左心耳は2度と生えてきませんので、この効果は一生維持されます。多くの脳梗塞リスクの高い患者さんにW-O法を行っていますが、心原性脳梗塞回避率はW-O I法 で98%、II法で99%です。PDFファイルを表示
② 抗凝固治療からの離脱効果:
出血性病変(消化管出血など)を持つ方など抗凝固治療が困難な患者さんは言うに及ばず、抗凝固治療によって日常生活に支障がある方や不安をお持ちの患者さんにとって離脱効果は大きいといえます。2018年12月現在、抗凝固治療離脱率は98%です(W-O II)。
③ アブレーション効果:
W-O I法のアブレーション治療成績は内科的カテーテル法による初回成績より圧倒的に良い(発作性心房細動では5年洞調律維持率92%, 維持型85%, 長期維持型70%)。
3大効果に加え、W-O法の特徴はその安全性と低侵襲性です。2018年2月の時点で合計1000例の手術を行いましたが、出血などの手術合併症による死亡例は無く、高齢の方(最高齢:94歳)にも安全に手術が行われています。また、W-O法は、心房細動を併発した心臓弁膜症に対する「メイズ」という開心術を原点としていますが、心臓の外側から「肺静脈隔離」ができるようになった最新のテクノロジーや手術器械などを駆使して、開胸せず人工心肺も使わず、“内視鏡の助け”を借りて行う、低侵襲(=患者さんに優しい)手術です。(手術の詳細、手術成績)
内視鏡手術というと、キズは小さいが、安全性や確実性が損なわれ、従来法より時間のかかる難しい手術だと思われる方もおられますが、必ずしもそうではありません。治療対象となる左心耳や肺静脈は心臓の背部に位置し、従来の胸骨正中切開創からでは非常に見えにくい場所にありますが、内視鏡を使用することにより、手に取るようによく見え、操作しやすくなります。これにより安全性・確実性を向上させ、手術時間も従来法よりはるかに短縮できました。さらに、W-O法オリジナルの左側左房一括隔離(=左心耳と左側肺静脈を一括して隔離する手技)を開発して、慢性心房細動の治療において従来法よりも良好な成績を上げることに成功しました。(Ohtsuka T, et al. En Bloc Left Pulmonary Vein and Appendage Isolation in Thoracoscopic Surgery for Atrial Fibrillation. Ann Thorac Surg. 2018;106:1340-7.
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低侵襲心臓・胸部外科手術のパイオニアとして世界的に有名な、また私の米国臨床留学時の恩師であり長年の親友でもある、心臓外科医のランドール・ウルフ氏がこの手術の原型である “ウルフ・ミニメイズ法”を考案し、これまでに世界中で2000人以上の心房細動の患者さんがこの治療を受けています。(http://www.wolfminimaze.com/ )
ユーチューブの ウルフ―オオツカ チャンネル もご参照ください。